会員リレーエッセイ「私の見たデンマーク」[1]

教育は国の原点~森の幼稚園を訪れて~

松本幸子   


多様多彩な教育スタイルがある

秋も深まる2018年11月に、福岡からデンマークを訪れました。環境・福祉・デザイン・教育など多岐にわたるデンマークに対する興味の中で、特に初のデンマーク訪問で楽しみにしていたのは、「森の幼稚園」です。
期待に胸を膨らませていた「森の幼稚園」。
驚いたことにデンマークでは、「森の幼稚園」は一般的ではなく、いわゆる普通の幼稚園が大多数であることでした。デンマーク中に250くらいの森の幼稚園があるのですが、なんと市内に森の幼稚園は一つきりでした。

私立と公立の中間の幼稚園の立ち位置の、森の幼稚園。保育料は2100クローネ/月(約4万円)と、一般的な幼稚園と同じくらいです。
入園希望者は、医師やサイコロジスト、実業家など、ある程度の富裕層である家庭が多いと言います。
「今、何が一番大事か・・・」。それを知っている人に受け入れられていて、それが一部の層であっても認められて運営されているのは、逆にデンマークは価値観の多様性があるからだと感じました。

森の幼稚園
森の幼稚園の外観
森の幼稚園
森の中に行くためのリュック

親も一緒に体験し、理解する

私たちが訪問した幼稚園では、入園する1か月前に家庭訪問があり、アンケートが行われ、子どもと家庭を面談し、最初の日は親も一緒に森に入るシステムでした。入園後は、3か月のならし保育があり、毎日、親とコミュニケーションを行い、2か月に1回は、親とのコーヒータイムが設けられています。

森の中で過ごす子どもたちは、赤いリボンを頼りに歩き、先の少し丸いナイフやピーラーで枝を削り、自分たちの遊び道具を先生が時々手伝いながら作っていました。森の中でも海賊ごっこが定番で、さすがバイキングのお国柄。さしずめ日本のチャンバラなのかな?と思い、ほほえましく感じました。

お弁当もとても簡単なものでした。直に地面に座って森の中で食べていましたが、特に手は洗うわけでもありません。今はどうでしょうか?日本であればおしぼり持参か森の中に水が出る施設をつくるかもと、いつの間にか日本と比較している自分がいました。

森の幼稚園
左)森の中でのランチタイム  右)先の丸いナイフ

共に考える教育。教育は循環している!

もし、庭の遊び場がつまらないと子どもたちが言えば、新しく購入ではなく、アップサイクルという考えの元、もっと良く、もっと楽しいものにする工夫をします。
子どもたちのために、常に、関わる人すべてで考えており、関わる大人も楽しんでいるに違いないし、こんな環境や考え方で育った子どもたちの未来が楽しみでもあり、また、自由で豊かな感受性の素敵な大人にならないはずがないと思いました。
「教育も循環しているのだ」と感心したし、日本に足りない部分かもしれません。

森の幼稚園
わくわくする森のファザード
森の幼稚園
子どもたちで作った秘密基地

教育こそが国家事業

デンマークの教育はすべて国が負担するという基本理念があります。才能は国家の財産だからとの考えが、国民に根付いていて、大学はすべて国立です。
医療費と同様、教育費を国民全体で負担するというこの選択の根底には、国民は国家の財産であり、教育こそが国家を支える人材を育成する国家事業であると、長い時間をかけてたどり着いた結論であると思いました。

果たして日本はどうでしょうか。
自分のために、将来の立身出世のために教育はあるのでは?塾に通い、学費もすべて個人負担であるのは、その証拠であるかもしれません。
特に感じたのは、デンマークでは教師の質がとても高く、豊富な社会経験も必要であることでした。日本では教師が部活動の顧問や生徒指導までもを行い、疲弊することが問題になっています。日本の教育者に対してデンマークに学び、具体的に改善をすることが緊急で重要な課題であると感じました。

森の幼稚園
左)自然を邪魔しない銘板  右)赤いリボンが道案内の役目

日本の教育の良さを柔軟に取り入れる姿勢

また、デンマークでは、日本の教育現場から学んで実践していることがあります。小学校の給食当番です。子どもたちの自主性ができる、とても良い取り組みとして評価をされていました。
さらに、靴を脱いで上履きに履き替える日本の文化に影響されて、生活様式を変えたところもあるらしいとの話も聞きました。
それに反して、上履きを禁止して、靴のまま過ごすことを選んだ日本の学校での例があり、実際に経験したことを思い出しました。
日本が培ってきた意味があってやっている良い文化は、少し手間はかかっても残していくべきだと改めて考えました。

人が大切にされる仕組みがある

なぜ、デンマーク人は「幸福な国をつくる」ことに成功したのか・・・。
世界最高レベルの社会保障制度を整え、食料もエネルギーも自活、世界でもっとも民主主義が進んでいると言われる国の原理原則は、何より人が大切にされる仕組みにあるのではないか。そう感じたデンマーク訪問でした。


<筆者紹介>
松本幸子 Matsumoto Sachiko
株式会社ダイドー不動産 代表取締役
福岡県飯塚市在住 福岡女学院短期大学家政科卒

福岡デンマーク協会の発足メンバーとして創成期より活動に関わってきた中で、人生の目的はなんであるかの気づきを学んだ。
「幸せの青い鳥はすぐそばにある」。
「心地いい」暮らし・・・コロナ禍や災害、ハイスピ―ドで進む便利な生活。
そんな現代に、世界一幸せなライフスタイル Hygge -ヒュッゲ- を生活に取り入れることを、縁のある方々に、事業を通じて伝えることを使命として活動をしている。