私たち一般社団法人福岡デンマーク協会のホームページにアクセスして頂きありがとうございます。
私は当法人の理事長の長阿彌幹生(ちょうあみみきお)です。
日常の暮らしや活動の中でデンマーク的視点からみた自分なりの気づきや感想などをご紹介し、皆様の暮らしや仕事に何かの参考にして頂ければと思っています。デンマークとは関係の無いようなエッセイもあるやもしれませんが、それも幸福という普遍的なテーマとして繋がっているものですので、拙文ですがお付き合いください。感想等頂ければ幸いです。また、私どものイベント等でもこのエッセイを種にして、お話しが出来ることを楽しみにしています。

福岡デンマーク協会 理事長 長阿彌幹生


理事長エッセイ(11)

デンマーク人の胆力(たんりょく)。

デンマークに行って感じたことの一つに“胆力”(タンリョク=ものに動じない気力・腹の据わった精神力)というものがあります。いろいろな場面で感じましたが、今回はコペンハーゲン国立美術館での体験を紹介します。

コペンハーゲン国立美術館を堪能
 コペンハーゲン国立美術館は、今から130年前に建築された棟と、その裏側に新しく建て増しされた棟の二つの棟から成り、数多くの美術品が展示してあります。訪問した日は雪の朝ということもあって、午前中の美術館は人影も少なく、ゆっくりとした時間が流れていました。
 
 入館者は1階の吹き抜けホールから広い地下のロッカースペースに降りて、コートやバッグなどをロッカーに入れてから展示スペースに入館します。この地下スペースも広々としていて、静かでほっとする感じのする場所でした。

 ロッカースペースから展示スペースへと進むと彫刻、絵画、立体芸術、映像芸術など様々な作品を観賞することができます。丁度、この時は昔のデンマークの家の中の様子を再現した迷路のような展示があり、観客は作品の中を通過しながら観賞するのですが、何とも不思議な時間を忘れさせてくれるような作品でした。そのような展示スペースを過ぎると、絵画の展示スペースになります。

 古い宗教画など時代別の展示になっている部分や、レンブラントなどオランダの画家を中心として風景画のスペースなど、展示もバラエティに富んでいます。風景画は大きな展示用の壁面に大小の絵が所狭しと掲げてあって、それを一枚一枚観賞していくだけでも一日はかかりそうなボリュームです。

 近代絵画のスペースでは、モジリアーニ、ムンク、マチス、ルオー、ブラック、ハンマースホイなどの絵画界の巨匠の作品が展示されています。
 そして驚くのは、その作品のどれにもロープが張ってあったり、物々しいガラスケースなどに入れられていないのです。至近距離での観賞も可能なのです。写真撮影もフラッシュ撮影でなければ可能です。
 私はこれらの名画を自分の気に入った距離で遠くから、近くからじっくり観賞しました。カンバスに残された巨匠たちの筆遣い・息遣いのようなものを感じることが出来、本当に感動しました。

 

何が大切かを教えてくれているよう・・・
  この美術館を見終わって、再び地下のロッカースペースに戻ったときに、この国の“胆力”というものを見せ付けられたように思いました。「絵は観る人のためにある」という当たり前のことが当たり前のように実践してあるのです。

 数々の名画は相当な価値がするものばかりです。日本での常識で考えると、これほどのものを何と無用心なことかと思うかもしれません。盗まないまでも、誰かが触ったり、傷つけたりしないとも限りません。それが、これほどまでに開放されて展示されているということは、観る人たちへの信頼感が根底にあること。そして万一心ない者が傷つけたとしても、その時は修理すれば良いではないか、という“物よりも人を大切にする”という考え方があるからではないかと思いました。  

 この日めぐり合った芸術作品の数々にも感動しましたが、この美術館の観客への信頼感、人間尊重の姿勢、その基盤となる“胆力”にも感動しました。
 このことをみても、デンマークという国が「私たちに何が本当に大切なものなのか」を示してくれているように思えてなりません。

■掲載写真は、コペンハーゲン国立美術館内の画家ヴィルヘルム・ハンマースホイの展示室です。
  ハンマースホイはデンマークの近代美術を代表する世界的な画家です。
  高価な絵が展示してありますが、この展示室にも警備員や監視スタッフの姿や、接近防止のためのロープはありません。

 

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追記

 4月から私が主宰しているデンマーク研究会(註)では、デンマークの幸福研究所の所長マイク・ヴァイキング氏の「デンマーク幸福研究所が教える「幸せ」の定義という本を使って、デンマークの高い幸福度だけではなく、「幸せ」とはどういうことなのかを考え始めました。
 「幸せ」については昔から多くの哲学者や宗教者などが考えてきましたが、この本は「幸せ」を色々な角度から考え、私たちの暮らしの幸福度を高めるための示唆を与えてくれます。今回の理事長エッセイでは、その本の中に引用されているロバート・ケネディ氏(ジョン・F・ケネディ米アメリカ大統領の弟で兄が暗殺された後の大統領候補として、その選挙戦の最中に暗殺された元米司法長官)の言葉を紹介したいと思います。皆さんはどう思われますか?
 半世紀も前の彼の言葉が今の世界に改めて、大きな問いを投げかけているように思えてなりません。