私たち一般社団法人福岡デンマーク協会のホームページにアクセスして頂きありがとうございます。
私は当法人の理事長の長阿彌幹生(ちょうあみみきお)です。
日常の暮らしや活動の中でデンマーク的視点からみた自分なりの気づきや感想などをご紹介し、皆様の暮らしや仕事に何かの参考にして頂ければと思っています。デンマークとは関係の無いようなエッセイもあるやもしれませんが、それも幸福という普遍的なテーマとして繋がっているものですので、拙文ですがお付き合いください。感想等頂ければ幸いです。また、私どものイベント等でもこのエッセイを種にして、お話が出来ることを楽しみにしています。

福岡デンマーク協会 理事長 長阿彌幹生


理事長エッセイ(21)

政治の羅針盤としての「幸福」 (2)

経済が豊かになっても幸福度が下がる 

 2011年、アラブ社会を揺るがす大事件が起こりました。
 ジャスミン革命により、23年間続いたチュニジアの政権が崩壊。エジプト、リビア、バーレーン、ヨルダン、シリアといった国に抗議やデモが拡がりました。このアラブの春以前の経済状況をみても、動乱の兆しは見られないでしょう。
 エジプトは2005年から2010年までの間に一人当たりのGDPが33%増加しました。チュニジアもそうなので国民は満足していただろうと推測できます。しかし、国民幸福度に目を向けると、この期間に劇的に下がっていることがわかります。人生に非常に満足している人たちの割合はエジプトもチュニジアを約50%も減少しました。国民が経済的に豊かになっても、不満は増しているのです。

何を測るかが行動を左右する 

 幸福度調査への重要性が増してきていますが、この調査が誤用・悪用される可能性を私たちは看過してはなりません。政府は調査結果について誤った情報を与えたり、自分たちの望み通りに幸福度調査の結果を操作したりする可能性があります。
 例えば、主観的幸福度についての質問を検討する際、その国の社会や生活で順風満帆な分野についての項目を質問に加えるように操作することで、回答者の満足度が高くなりかねません。また、逆に住民が注目を浴びたいあまり、アンケートの生活満足度で、わざと低い点数をつける危険もあります。

心の問題に苦しむ現代人

 デンマーク国家保健委員会によると、デンマークの全成人の5%がうつ病を患っています。また不安やその他の精神の問題で苦しんでいる人も7%未満ほどいます。
 一方、2013年の世界幸福度調査によると、世界では4億人がうつ病に苦しんでいて、不安に苦しんでいる人も3億人近くいます。これらの数字は地球人口のそれぞれ6%と4%に相当します。
 デンマークでは、長期病気療養の50%及び、早期退職の48%がメンタルヘルスの問題を理由にしています。30歳未満の青少年の早期退職の80%が精神の不調を理由にしています。
 世界保健機構(WHO)は、「個人の潜在能力を活かせ、日常の課題に取り組め、生産的に働け、コミュニティに貢献できるような幸福な状態」とメンタルヘルスを定義しています。

社会共通の課題解決に触れる

 私たちが市民としてコミュニティに寄与する方法の一つがボランティア活動です。幸せな人は他の人のためになることやボランティアをよくする傾向があるようです。将来の幸福に焦点を当てることで、ボランティア部門の強化や社会共通の課題解決に繋がるでしょう。
 ボランティア活動は政界からも注目されています。今でも既にデンマークGDPの約10%に相当する1350億クローネ(※2兆5000億円)の価値を創造しているボランティアの力を、どうしたら最大限に活かせるかが思案されるのは驚くことではありません。

ビジネス界の最新テーマ「幸せ」 

 「Excelシートや、SWOT分析、リスク管理のことは全て忘れよう ー ビジネススクールの最新テーマは“幸せ”だ」と、2013年のフィナンシャル・タイムズ紙にそんな文字が踊りました。ビジネススクールやビジネス界が幸福に関心を持つようになってきている背景には、幸福な従業員がより生産的で離職率が低い傾向にあることが幸福研究により分かってきたからです。
 実際、幸福な従業員の在職期間は、幸福度の低い従業員の2倍です。同時に幸福な従業員は健康で、そのことからも病欠日数も少なくてすみます。不満のない従業員は一緒に働きやすく、仕事の質も高まります。これらすべてによって、職場の競争力は上がり、最終的に利益も増します。ハーバード・ビジネススクールの研究では、幸せな日々を送っている従業員は、新しいアイデアを思いつきやすい傾向にあることを明らかにしました。

~次回に続く~ 

 

幸福